おくりもの

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

ともあって、きびしく育てました。
  そのケンジが、ひろってきた子いぬをこっそり物置でかっていたのは3年生のときです。

ケンジは、子いぬにペスという名前をつけてとてもかわいがっていたのですが、ある日とうとう源造さんにみつかってしまいました。源造さんは、ペスのくびをつかんで物置から出てくると、たったひとことこういったのです。

 「このいぬをすててきなさい」
  粉雪がチラチラふる寒い日でした。こんな日に子いぬをほうりだしたら、どんなことになるかわからないわけではありませんでしたが、どうにもはらがたってしかたがなかったのです。

  ケンジはなきながら、子いぬをだいて出て行きました。1時間ほどしてもどってきたケンジは、その日から、源造さんとはあまり口をきかなくなってしまったのでした。


  『おひさま アニマルクリニック』についたときには、源造さんのゆびはすっかりかじかんで、体じゅう雪だらけでした。  「かぜですね。熱がたかいけど、クスリを飲ませてあったかくしていればだいじょうぶでしょう。きょうは外も寒いので、ここでおあずかりしますから、あすの朝、むかえにきてください」

  わかい先生のさわやかなえがおに、源造さんははじめてほ~っといきをつきました。
 「よかったな、ペス」
 「あれ、このいぬもペスっていうんだ。ぼくのいぬの名前もペスなんです。もっとも、3年前にしんでしまいましたけどね。そういえば、あいつの小さいころににてるな。ぼくのペス、ケンジくんにもらったんですよ」
 「えっ?」
  源造さんははっとして先生の顔を見ました。
 「おじさん、ぼくですよ。ケンジくんの同級生のサトシです。雪の日に、ペスをだいてなきながらあるいているケンジくんとぐうぜん出会って、もらったんです。ペスはぼくのおとうとみたいなものです。獣医になったのも、ペスのおかげだな」
  はなしをきいていた源造さんの肩がぶるぶるとふるえて、その目から涙がしずかにあふれました。
 「そうか。しあわせに生きられたんだ。よかった。よかった」

  つぎの日、朝いちばんにペスをむかえにいった源造さんは、いちにちじゅうそわそわとおちつきませんでした。電話のまえをいったりきたり。やっと決心して受話器をとったのは夜もおそくなってからでした。
  電話にでたのは、ケンジのおよめさんのトモコさんでした。
 「も、もしもし、トモコさん?」
 「はい。あの・・・? あっ、おとうさんですか?」
 「う、うん。あの・・・」
 「ケンジさんですね。ちょっと、ちょっとまってください」
  心臓がドコドコ音をたてました。てのひらにじっとりあせがにじんでいます。
 「もしもし。・・・・・」
  ケンジの声をきくのは何年ぶりでしょう。
 「ケンジか。・・・・・。げんきか?」
 「うん。・・・・・」
 「い、いや、ようじ、じゃないんだが」

  そこまでいうと、源造さんはなにも言えなくなってしまいました。それはケンジもおなじようで、受話器をにぎりしめたまま、気まずい時間がながれました。

  ペスは源造さんのそばにすわって、キョトンとくびをかしげてみていましたが、やがて、のそのそとひざの上にあがると、受話器にむかってほえました。
 「クウ~ン。ワ、ワ、ワ、ワン!」
 「とうさん、いぬをかってるの?」
  ケンジがおどろいてたずねました。
 「ああ。ペスっていうんだ」
 「ペス・・・・」
  また、はなしがとぎれました。
 「いや、元気ならいいんだ。それじゃあ、またな」
  電話をきろうとしたそのときです。
 「とうさん、こんど、こどもたちをつれてあそびにいくよ。そのう・・・、ペスにあいにさ」
  ケンジがおだやかな声でいいました。
 「そ、そうか。ペスがよろこぶよ」
  源造さんの顔が、ふっと、ほほえみにつつまれるのをみて、ペスがうれしそうにしっぽをふりました。
 「ペス、おまえのおかげだ。ありがとうよ」
  源造さんはそっとペスをだきあげました。

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