おくりもの

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

作者からのMessage

幼い頃は誰もがあたたかく、柔らかな心を持っています。けれど、柔らかな心は傷つきやすく、人は大人になるうちに、かたい鎧をまとっていきます。そんな頑なな心を溶かしてくれたのは、かわいい子犬のぬくもりでした。

  源造さんがペスに出会ったのは、ほんのぐうぜんでした。ある日、さんぽのとちゅうで佐藤さんの家の前をとおりかかったとき、キュンキュンというなき声といっしょに、こんな声が聞こえてきたのです。
 「とうとうこの子だけのこっちゃったわね。いまどき雑種なんて、3びきももらいてがみつかっただけでもありがたいけど」
 「しかたない、保健所につれていくか」
  植木のすきまからそっと家の中をのぞいてみると、母いぬにあまえてじゃれている、茶色の子いぬがみえました。
  ふ~んと、そしらぬ顔で立ちさろうとした源造さんは、ふと顔をあげた子いぬと目があって足をとめました。
  子いぬはなにを思っのたか、トコトコと窓にかけよると、源造さんをみあげてうれしそうにシッポをふっています。
  それを見ておどろいたのは、源造さんだけではありませんでした。びっくり顔の佐藤さんにみつめられて、おもわずこういってしまったのです。
 「あ、いや、えっと、そのいぬ、わしがもらうよ」

  源造さんは近所でも有名ながんこものでした。5年前におくさんをなくしてからは、ふたりいるこどもたちもめったにたずねてくることもなく、近所づきあいもしないで、ひとりでくらしていました。
  かえりの道も、家にかえってからも、源造さんはおこったようにむっつりしていました。もっとも、それがいつもの源造さんの顔ではあったのですが。そんなことにはおかまいなしに、子いぬはうれしそうにしっぽをパタパタふってついてまわります。
  源造さんは物置からカゴをみつけてくると、じぶんがいつもつかっているひざかけをしいて子いぬを中に入れました。
 「さあ、ここがおまえの寝どこだぞ」
  子いぬはよたよたしながら、クンクンにおいをかいでまわっていましたが、源造さんが立ちあがると『おいていかないで』とばかり、あわててカゴの中からみをのりだして、ドッテッところげおちました。
 「水をもってくるだけだよ」
そう言いながら子いぬをだきあげると、源造さんははじめてくすりとわらいました。

  子いぬはペスと名づけられました。ペスはなかなかの器量よしです。銀杏みたいな、おおきな、まっくろな目がくりくりして、口の両はしがきゅっとあがっていて、まるでわらっているようにみえます。
  あおむけにしておなかやわきをクシュクシュくすぐってやると、いまにもきゃっきゃと声をたてそうです。
  笑顔というのはすてきなもので、そんな顔をみているだけで、わらうことなどとんとなかった源造さんの顔にも、しぜんとほほえみがうかんでくるのでした。

  そんなある日のこと。その日は朝からどんよりと曇ったさむい日でした。町に出かけてあれこれ用事をすませて、源造さんが家に帰ったのはもう夕方でした。
 「お~い、帰ったよ」
声をかけながら玄関をあけた源造さんは、あれっ? と首をかしげました。いつもなら、足音

がきこえただけで飛びだしてくるペスがいないのです。あわてて部屋の電気をつけてみると、カゴの中でぐったりとくずれるようにうずくまっていました。

 「ペス、どうしたんだ?」
源造さんの声にも、ちらりと目を向けるだけです。
 「ぐあいが悪いのか? いま、病院につれていってやるからな」
  源造さんはペスを毛布でくるむと、じぶんのジャンパーのむねにしっかりだいて、外に飛び出していきました。ちかくの病院まで、急いでも15分はかかります。
  ピューピュー北風に、いつのまにか雪がまじってほほをたたきました。
 「ペス、だいじょうぶだぞ。おれがついているからな」
ペスに声をかけながら、源造さんはふと、18年前のことを思い出していました。


  源造さんには3つちがいの、むすことむすめがいます。短気な源造さんは、こどもたちにとってもこわいおとうさんでした。とくに、むすこのケンジにたいしては、男の子だからというこ

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