ネコダマ

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

くてたまらなかった。
 「ネコダマ、お誕生日おめでとう! ぼくのところに来てくれてありがとう!」
  そういったら涙がポロポロとこぼれ出た。こんな気持ちになったのははじめてだった。こんな涙ははじめてだ。悲しい涙とはちがう。くやしい涙ともちがう。うれしい涙とも、ちょっとちがう。胸の中のあったかいものが、ぶわってあふれ出して、涙になったみたいだ。
 「アツシ、おれのほうこそありがとう! おまえに会えて、ほんとうによかったよ!」
  今度はぼくの心がネコダマに伝わったのかもしれない。ネコダマもオイオイと声をあげて泣いた。

  ネコダマの様子がおかしくなったのは、その頃からだった。はじめはその体にそってうっすら光が見え始め、それは日に日に大きくなってネコダマを包んでいった。
  ぼくは気づかないふりをしていたけど、ほんとうはいやな予感でいっぱいだった。
  そして、そんなある日、キキキキキーッ、というブレーキの音にふり返った瞬間、ぼくの体が宙に浮いた。気がつくと、ぼくは道路の真ん中に立っていて、足元にぼくの体が横たわっていた。ネコダマのときと同じだ。
 「ああ、ぼく、死んじゃったんだ」
  ぼくは、ぼんやりした頭の中で思った。
 「まだ間にあうよ。早くもどったほうがいい」
  ネコダマが耳元でいった。でも、ぼくの気持ちはふしぎと落ち着いていた。それどころか、うれしい気持ちでいっぱいになっていた。
 「これで、キミといっしょだね。ぼくたちずっといっしょにいられるね。もう、ひとりぼっちにならなくていいんだね」
  ぼくの頭の中で小さい頃のできごとがグルグルとよみがえってきた。
 「ぼくのお母さんはね、小さいときに、ぼくを残して家を出て行ってしまったんだ。おとうさん、酔っぱらうとひどく暴れる人だったからね。妹だけ連れてった。ぼくのことはいらないと思ったんだね。ぼくは毎日おとうさんに『おまえも出てけ!』って殴られた。でも、ぼく、行くところなんてなかったからずっとがまんしてたんだ」
  ネコダマがブルッと体をふるわせて、何か言おうとしてやめた。きっとネコダマにもそんな光景が見えていたんだろう。
 「そのうち、おとうさんもいなくなった。小学校4年生のときだったよ。それからぼくは施設で暮らすことになったんだ。施設でもいじめられてね。ぼくはどこでもいらない子だった。おとなになってもいつもひとりぼっちだったよ」
  ふいに胸がキュンとしめつけられ、涙があふれそうになった。だけどこれはぼくの気持ちじゃない。ネコダマの気持ちがぼくに伝わってきてるんだろう。
 「だから、キミといっしょに暮らせてうれしかった。今が一番幸せなんだ。だけど、キミはもう行っちゃうんだろ? だったらぼくも行く。もうひとりぼっちはいやなんだ」
  胸があつくなって涙があふれた。こんどはほんとうのぼくの気持ちだった。
 「オレも、アツシと暮らせて幸せだったぜ。誰かにこんなにだいじにされたのは生まれてはじめてだった。おれもいつもひとりだったからね。でも、一番うれしいのは、オレがアツシのことが大好きだってことさ。自分のことより大切だと思える相手がいるってこんなに幸せなんだね。サヨナラするのはつらいけど、オレ、今、わくわくしてるんだ。早く『あの世』ってとこに行って、こんど生まれてくるときは、いっぱいいっぱいだれかを大切にしたいよ」
  ネコダマはぼくの肩からふわりととびあがると、ぼくの目の前にうかんでそういった。
 「だったらぼくも連れていってよ。ぼくも生まれ変わってそんな人生を送りたい」
 「それなら簡単さ。キミはその体にもどればいいんだ。過去は変えられないけど、未来の自分はいくらでも変えられるよ。死ななくても、何度でも生まれ変わることはできるんだ。オレももっと早くそのことに気づけば・・・」
  最後の方は救急車の音にかき消された。
  ネコダマはみるみる光に包まれて、光の玉になって、ゆっくり空に上っていった。そして、ぼくの意識はスーッと遠くなった。

  あれから3年がたった。
ネコダマ、キミは今どうしてる? もうどこかで生まれ変わって幸せに暮らしてるかい?
ぼくは去年結婚したんだ。もうすぐ子どもも生まれる。ぼくは今、わくわくしてるよ。新しい家族をたいせつに守っていこうと思うんだ。

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