ネコダマ

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

 「うん。きのう。すっかり大きくなって、おとなの姿になっていたけど、オレにはすぐわかったよ。そしたらさ、あいつ、どうしてたと思う?」
  ネコダマがクフッと笑ったとたん、ポンっとはじけるように、ぼくの目の前にそのときの光景がひろがった。
  明るい部屋の中に、おとうさんと男の子。おとうさんのひざの上にネコがいる。茶色のシマシマもようで、おなかがまっ白なネコ。みんなでかこんでいるテーブルの上には、イチゴがいっぱいのった丸いケーキがあって、ローソクが1本立っていた。
 「さあ、チャコの大好きなチキンよ!」
  おかあさんがニコニコしながらゆでた鳥のササミをはこんできた。
 「チャコ、お誕生日おめでとう!」
  おとうさんが、そう言いながらローソクに火をつけると、ネコがキョトンと首をかたむけた。
 「チャコが家にきて、きょうで一年だね。だから、きょうはチャコの誕生日なんだぞ。おめでとう!」
  男の子が頭をなでてやると、チャコと呼ばれたネコはその手にスリスリと顔をすりよせた。みんなにこにこ笑ってる。
 『なんて幸せそうな家族なんだろう』
  ぼんやりとながめていたぼくの胸がポチリと痛んだ。

 「さあ、帰ろう!」
  ネコダマの声で、ぼくはわれにかえった。ネコダマはシッポをピンとたてて、さっさと歩きだした。
 「それで、いもうとには会ったの?」
  ぼくは、あわててついていった。
 「会わないほうがいいんだ。しあわせだったらそれでいいんだ。だいいち、オレは死んじゃったんだぞ。お化けなんだぞぉ~~~!」
  ネコダマは後ろ足で立ち上がると、前足をだらりとたらして幽霊のかっこうをして見せた。
 「オレが死んだって知ったら、悲しむだろ? いや、悲しくなんかないかな、あんなにいい家族がいるんだもんな。でも、いいんだ。ちゃんとしあわせなのを見とどけたから、これでもう思い残すことはなにもないよ。 うん!」
  そう言うと、ネコダマはぼくの前をスタスタ歩いていった。『やせがまん?』と思ったけど、でも、なんかふっきれたようなうしろ姿だった。ほんとうにそれでよかったんだろう。そう思ったらぼくは急にさびしい気持ちになった。
 「思い残すことがないなんていうなよ」
  ぼくが小さな声でつぶやくと、ネコダマのやつ急に足を止めてなにやら考えこんでいたかと思うと、ゆっくりふりかえってに~っ、とわらった。
 「あったよ、あった!」
 「えっ? なにが?」
 「思い残すこと!」
  ネコダマがクフフとわらった。
 「なんだよ、いきなり!」
 「な、な、なっ、オレもやってくれよ。『お誕生日おめでとう!』ってやつ。一生のお願いだよ。おれだって、一度でいいからやってほ・し・い~!」
  まったく、一生のお願いがいくつあるんだか。
  ぼくの頭の中にさっきのしあわせそうな家族のすがたがうかんだ。
 「お誕生日おめでとうか…。よし、やるか!」
  ぼくがそういうと、ネコダマは飛び上がって喜んだ。

  かえり道、ぼくらはケーキ屋さんによって、イチゴがいっぱいのったケーキを買った。一切れずつに切ってない、まるごと1個のケーキを買うなんて、生まれてはじめてだった。ローソクは袋にいっぱい入ったのをつけてもらった。数えてみたら10本あった。どう考えてもネコダマは10歳になんかなってないだろうけど、何でもいっぱいがいいらしい。
  ローソクに1本ずつ火をつけていくと、ほんとうにうれしそうに目をキラキラさせた。その顔を見ていると、なぜかぼくは胸がいっぱいになって涙があふれそうになった。
 「な、な、オレは7歳だから7本。あとの3本はアツシのだぞ」
 「ぼくは3歳なんかじゃないよ」
 「いいじゃないか。アツシのは1本で10歳ってことにしよう!」
 「え~っ? ぼくはまだ30歳なんかじゃないよ!」
 「かたいこというなよ! きもち、きもち!」
  そんなことを言い合ってゲラゲラわらいながらも、ぼくはこのなまいきなクロネコが、いとおし

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