ネコダマ

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

えながら走ったり、手をのばして、つり革につかまっている人の頭をペシ、ペシ、ペシとパンチしたり、座っている人のひざの上をかけまわったり。
  会社につくと、今度はみんなの机の上で遊ぶんだ。ペンをころがしたり、消しゴムを落としたり。この前なんて、パソコンをいたずらして、大騒ぎになった。突然、へんな文字が次々出てきたら、だれだってビックリするよ。
  朝からどなりまくってる課長の頭の上に乗って、顔のまえでしっぽをゆらゆらゆすったりしているなんてこともあった。しっぽの先が課長の鼻をこすって、課長がクシャミしたときにはおどろいたけど、ぼくは笑いをこらえるのに苦労した。
  その内、おとなしくなったなと思ったときは、たいてい会社一の美人の加藤さんのひざの上でちゃっかり昼寝をしてる。そりゃあ留守番より楽しいはずだ。
  家に帰ると、ぼくが鍵を開けている間に、先に玄関に入って待ちかまえてるんだ。
 「ただいまー」
とドアをあけると、ぼくの足にすりすりしてから、『さあ、なでてくれ』とばかり自分からドテンと仰向けになって待っている。まったく、おかしなやつだ。
  休みの日は近所の公園に行ったり、ドライブしたり。ぼくは、ネコダマをいろんなところに連れて行ってやりたくて、週末が待ち遠しかった。だって、どこに行っても大よろこびしてくれるんだ。記念写真もいっぱい撮った。そのためにわざわざ高いカメラと三脚も買った。あとで見ると、どの写真にもネコダマの姿は写ってなかったけれど、きれいな風景の中で、ほんとうに楽しそうなぼくの笑顔がいっぱい写ってた。
  一度、ネコダマの姿が見えるという人に呼び止められたことがあった。
 「もしもし、あなたに人相の、いえ、ネコ相の悪いクロネコがとりついてますよ。早くお祓いをしないと、取り殺されますよ」って。

 「ああ、こいつですか? こわい顔してるけど、けっこういい奴なんですよ。なあ、ネコダマ!」

  ぼくがそういうと、ネコダマがにんまり笑って、いきなり顔の前で、『フンギャーーーー!』と大口を開けたので、その人はあわてて逃げていった。
  取り殺されるだって? そんなはずないじゃないか。ネコダマはぼくの親友なんだ。

そんな暮らしが3ヶ月くらい続いたある日、ぼくたちは、前にネコを埋めた河原を散歩していた。まだ風は冷たいけど、桜の木がうすいピンク色のつぼみをつけはじめていた。
 「なあ、アツシ、おまえ、きょうだいいるか?」
  とつぜん、ネコダマがそんなことを聞いた。
 「きょうだい? う~ん、いない…。キミはいるの?」
 「いもうとがね。っていってもほんとうのいもうとじゃないけど…。もう1年くらい前になるかな、オレがここを歩いてたら、子ネコがひとりでミャーミャー泣いてたんだ。よっぽど心細かったんだろうな、オレのすがたをみつけてとんできたよ。あんまりちっちゃいからほっておけなくてさ、面倒みることにしたんだ。かわいかったぜ。茶色のシマシマもようで、おなかのところがまっ白なんだ。いっつもオレにくっついてて、寝るときだってオレのおなかにあたまのっけてねるんだ。」
  ネコダマはなつかしそうに目をほそめた。
 「それで? その子、どうしたの?」
 「それからしばらくして、病気になっちゃったんだよ。だんだん元気がなくなって、クシャミや鼻水がいっぱい出て、ぐったりして動けなくなってしまったんだ。オレ、心配で、泣きそうだったよ。だって、そのままだったら死んでしまうだろう? それで、思い切って、その子をくわえて、通りかかった家族づれ前に連れて行ったんだ。なんとか助けてほしくって」
  ぼくの胸に、不安とさびしさが広がっていった。これって、ネコダマのその時の気持ちなんだろうと思った。すると、すーっと目の前に、映画のようにその時の光景が広がった。
  おとうさんとおかあさんと男の子。道のまん中にすわったクロネコと、その足下にうずくまる茶色い子ネコ。男の子が走ってくるのを見て、クロネコは木のかげにかくれた。
 「ねえ、見て、ネコさんだよ。あれ? この子、病気なのかな。ねえ、おとうさん、病院に連れて行ってあげようよ」
  映像はそこです~っと消えた。

 「子ネコ、助けてもらったんだね」
  ぼくが聞くと、ネコダマはうなづいた。

 「だけど、やっぱり心配だったんだ。しあわせに暮らしてるのかなって、ずっと気にな

ってた。だからオレ…、最後に…、もう一度、会いたいなって思って。探してみたんだ。近所の家、一軒一軒のぞいてまわってね」 「この間から時々いなくなったのはそのせいだったのか。それで、みつかったの?」

1ページ

2ページ

3ページ

4ページ

5ページ

{Top}

  • ペスのおくりもの
  • ネコダマ
  • 猫にもらった宝物
  • いつも、こころに

©Copyright 2009 SHONAN LITERARY DORMITORY All Rights Reserved.