ネコダマ

上原 空見子

Profile

うえはら・くみこ。神戸市生まれ。フリーライター。「第10回リブラン創作童話」で優秀賞受賞。幼稚園教諭、高齢者福祉関係の仕事を経て、現在はNPO法人で児童虐待防止活動に取り組んでいる。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

  家に向かって歩きながら、ぼくはずっとネコのことを考えていた。

 「ほんとうにあれでよかったんだろうか。病院に連れて行ってやったら助かったんじゃないか? だけど、最後の願いをかなえてあげられたんだからよかったんだよな」

  自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、
 「そうだよ。よかったんだ。ありがとな!」
  すぐ横の、塀の上から声が聞こえてドキン!とした。あいつだ。まだこの世にいたんだ。
 「でもさぁ、あれは最後の願いじゃないんだよ。最後の願いはほかにあるんだ。かなえてくれよ」
  ネコはちょっとあまえた声でいった。
 「なんだって? そんなこと言われたって」
  ぼくはびっくりしてネコを見た。
 「だって、オレの最後の願いをかなえてやりたいって、思ってたじゃないか」
  そういわれて、言葉につまった。だいたいこいつ、何でこんなにえらそうなんだ? 
 「じゃあ、キミの最後の願いってなんだよ」
  ぼくはちょっとムッとしながら聞いた。

 「オレの願いはそのぉ~、あれだ~。え~っと、一度でいいからさ、なってみたかったんだよ。そのぉ~、さあ~、『飼いネコ』ってやつにな」

  ネコは長いしっぽをクネクネと動かしながら、ちょっと照れくさそうにいった。
 「飼いネコ?」
 「ああ、オレは生まれたときからノラネコでね、ずっとひとりで生きてきたんだ。ノラネコ暮らしって、そりゃあたいへんなんだぜ。特に冬なんか、骨まで凍っちまいそうな寒い日に、おなかをすかせて歩いてると泣きたくなるよ。そんなとき、あったかそうな部屋の中でうまそうなごちそう食べたり、人間のひざの上であまえたりしているやつらを見ると、うらやましくてね。なにしろオレはおなかいっぱい何かを食べたり、なでてもらったりしたことがないんだから」
  ネコはうっとりと夢見るような顔でぼくを見た。見た目とあまりにも不似合いなようすに、ぼくにはちょっとそいつがかわいく思えた。
 「飼いネコかぁ。それならかなえてやれるかもしれないな。でも、少しの間だけだよ」
 「うん、わかってる」
  ネコはうれしそうにクフッ、と笑った。そして、すかさずこういった。
 「だったらさあ、つけてくれよぉ~、『な・ま・え』。飼いネコにはみんな名前があるんだ」
 「そうだね。う~ん。なにがいいかなぁ? ネコといえばタマ? なんて、いまどきそんな名前つけないか。クロってなんか犬みたいだし。う~ん。『ネコの魂』だから、ねこたま? いや、ネコダマってどうだい?」
 「うん。そいつはいいね。なんかかっこいいよ。うん、うん。ところで、おまえの名前は?」
 「ぼくはアツシだよ」
 「アツシか、よろしくな!」

  ネコダマはピョンと飛び上がると。ぼくの肩にひょいと乗った。ぼくのアパートはすぐそこだ。



 「いいかい、飼いネコったって、ぼくは一人暮らしだから、キミ、昼間は留守番だよ」
  アパートに向かって歩きながら、ぼくはネコダマに言った。
 「留守番ってなんだ?」
 「うーん、つまり、ぼくが会社に行ってる間、家で待ってるってことさ。それで、ぼくが帰ってくると、玄関で出迎えてくれるんだ」
  ぼくはアパートの鍵を開けながら話し続けた。
 「こうやって、『ただいまー』ってドアを開けると、『おかえり~』って足元に飛んできて、すりすりと体をすり寄せるんだ。そしたらいっぱいなでてあげるよ」
 「なでる? なでるって、どんなふうに?」
  ネコダマは床に飛び降りると、期待で目をキラキラさせてぼくを見上げた。
 「こーんなふうにさ」
  おなかをワシワシとなでてやると、ネコダマは仰向けになって背中を床につけたまま、ゴロリンゴロリンと体をゆすってよろこんだ。
 「いいな、いいな。留守番っていいな」

  その日からぼくたちの暮らしが始まった。
  ネコダマのやつ、留守番には一日であきた。だから、次の日からは、いっしょに電車に乗って会社に行くことにしたんだ。
  ネコダマの姿は、どうやらぼくにしか見えてないらしくて、ネコダマはやりたい放題だった。電車の中では、網棚の上がすっかり気に入って、障害物競走みたいに、荷物の上を乗りこ

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