いつも、こころに

瀬戸 風子

Profile

せと・ふうこ。神奈川県生まれ。保育士として長年幼児保育に携わる。現在は子育て支援のかたわら、童話の創作を続けている。

作品はオリジナル作品です。著作権は湘南文学舎に属します。無断転載・転用はお断りします。

作者からのMessage

認知症のおばあさんの記憶から消えることのなかった思い出は、幼いころの悲しい出来事でした。

 『ふあ~あ』
  のらねこのミミ子が、公園のベンチで大きなあくびをしました。
 『ああ、いいきもち。もうすっかり春ね』
  ベンチの上まではり出した桜の枝から、花びらがはらはらと舞いおちて、ミミ子の鼻の頭をくすぐりました。
 『きょうこそは、このままだれにもじゃまされずに、お昼寝していたいものだわ』

  そう思いながら、大きくのびをして、体をおこしたミミ子の目に、おじいさんに手をひ

かれて、ヨチヨチと子どものようにゆっくりゆっくり歩いてくる、おばあさんの姿がうつりました。  「ほら、きょうもねこちゃんがいるよ」
  おじいさんがミミ子をみつけて、にこにこしながらおばあさんに話しかけています。
 「あらまあ、ほんとう。かわいいわ。あの子は三毛ねこね」
  ミミ子のいうじゃまというのは、どうやらこのふたりのことのようです。
  ふたりはまっすぐに、ベンチにむかって歩いてくると、ミミ子をおどろかさないように、そっと腰をおろしました。
 「ねこちゃん、こんにちは。あなたお家はどこなの? ひとりで遊びにきたの?」
  おばあさんが、にっこりわらって声をかけました。
 『やれやれ、まただ。このおばあさんときたら、毎日おなじことを聞くんだもの、いちいちつきあっていられないわ』

  ミミ子はわざと背中をむけると、知らん顔したまま、しっぽでベンチをパタンとたたきました。

 「きっと、のらねこなのね。こんなにかわいい子なのにどうして捨てられちゃったのかしら? かわいそうに」
  おばあさんは、気のどくそうに眉をよせて、ミミ子を見ました。
 『ふん、大きなお世話よ。わたしは好きでのらねこやってんのよ! それよりはやくあっちに行ってちょうだいよ』
  ミミ子はいらいらして、しっぽをパタパタさせました。

  おじいさんとおばあさんは、天気のいい日はきまって、おなじ時間に散歩にきます。
  そしてかならずこのベンチにすわって、話をして行くのですが、それがなぜだか、いつもおなじ話なのです。
 「ねこちゃんもかわいいわね。わたしは、ねこは飼ったことがないけど、子どものころ、いぬを飼っていたのよ」
  おばあさんが、ミミ子を見ながらおじいさんに言いました。
 「そうかい」
 『ほーら、また始まった』
  ミミ子は、心の中でつぶやきました。
 「にいさんと家の近くの川原で遊んでいてね、子いぬをみつけたのよ。ちっちゃくって、かわいくてね、つれて帰ったの。ちょうど弟が生まれた年だったわ。かあさんはだめだって反対したのよ。むかしは同じ年に生まれたいぬをかうと『こどもが負ける』とかいっていやがったものだからね。だけど、このまま捨ててしまったらひとりでなんて生きていけないもの。とうさんからもおねがいしてもらって、やっとかあさんもゆるしてくれたのよ」
  おばあさんは、なつかしそうに目を細めました。おじいさんは、大きくうなずきながら聞いています。
  ミミ子はというと、
 『はいはい、全身が黒い子だったから、クロっていう名前にしたんでしょ。シッポがふさふさした、りっぱなおとなになったのよね』
  もうすっかり、おばあさんの話すことをおぼえてしまって、うんざりしていました。
 「弟はもともと体がよわかったんだけど、3歳の冬にね、クロといっしょに遊んでいて、川に落ちてしまったの。さいわい、とうさんがすぐに助けあげたから、おぼれることはなかったんだけど、それが原因で風邪をひいてね、おまけに肺炎をおこして、死にそうになってしまったの。そしたら、かあさんがすごくおこって、この子がこんな目にあったのは、クロのせいよ。どこかに捨ててきてちょうだい』って言いだしてね、しかたなく、とうさんが車に乗せて、出かけて行ったのよ」
  ミミ子は、おばあばさんの話がこのあたりまでくると、さっさと立ちあがって、どこかへ行ってしまいます。
 『いぬがすてられる話なんて、聞きたくもないわ。ほんと、人間って勝手よね』

  ミミ子がおこっているのには、わけがありました。

  じつはミミ子は、つい半年ほど前までは、この公園の近くの家で、おとうさんとおかあ

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